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エロゲの背景における「断絶」と「接続」に関する一考――『真剣で私に恋しなさい!』通学路より

   ↑  2009/09/15 (火)  カテゴリー: メモ
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エロゲの背景描写は、その特色故にもうちょっと考えてみたいところなのですが、とりあえず『真剣で私に恋しなさい!』では、<変態の橋>が興味深かったです。

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『真剣で私に恋しなさい!』では、主人公が学生で、ということは当然学校に通うワケなんですけど、その際の「通学路」というものが、そこで映される場面(背景)が、「家の前」「河川敷」「変態の橋」しかない。川が境界の役目を担っていて、橋がそれを繋ぐものを担っているというのは、古今東西どんなジャンルでも言われてきたことですけど、エロゲ(ノベル・アドベンチャータイプ)においては連続性のある背景描写というものが実質不可能であって、その断絶性が、「川」「橋」という境界における断絶性、さらには「家」「学校」という場所的・プライベート/パブリック的な断絶性、そこをより(絵的な意味でも)引き立てると思うのです。

たとえば、映像メディアの話ですが、蓮実重彦さんは映画「秋刀魚の味」における、一階と二階の分離を指摘していました。

そして夫婦は一階にいて、子供や来客は二階に寝泊まりする。男の聖域である料理屋の座敷と対応しつつ、家屋の二階が娘たちの聖域になっており、階段の不可視性によって奇妙に浮遊しているという蓮實重彦の指摘はよく知られていよう。
【五十嵐太郎「映画的建築」・P36】


階段を映さないことにより、一階と二階の接続性・連続性が弱くなる。一階と二階が”実際に繋がっている(自由な行き来的な意味で)証拠”が映されないから、二者の繋がりという想像力が働けず、これにより、二階が奇妙に「浮遊している」。どうやって一階と二階を行き来するのかが映されないということは、一階と二階の行き来が(視覚的に)保証されていないと認識できるということです。

これは誰も指摘していない……つうか、ボクが暇なとき見返して後で指摘しようかなーと暖めておいたのですが(時間ができたら纏めるかもー)、まあいいやということで今申し上げますと、京アニ版『CLANNAD』『CLANNAD AFTER STORY』においても、ひとつ似たような「奇妙な浮遊」があるんですね。
それは「朋也の部屋」
岡崎家は結構な回数映っていますが、”朋也の部屋がどこにあるのか”がまるで映っていません。居間、流し、朋也の部屋、あと玄関、それらは数限りなく映りこむけれど、”どこに階段があるのか””どうやって朋也の部屋に入れるのか”が、まるで映っていない。
先ほどの「秋刀魚の味」と同じことです。奇妙に浮遊している。「朋也の部屋」と、この家の別の場所が、まるで接続性がない、まるで連続性がない。たとえばボクたちが岡崎家の玄関から中に入ったとして、どこ歩いたら朋也の部屋に着くのか、まるで分からないでしょう。入って、結構すぐに台所があって、居間があって、その奥に階段があるんだろうな――くらいは想像できるけれど、その先が映されていない故に未知すぎる。朋也の部屋という、朋也の居場所は、他の部屋と、つまり他の部屋の住人と、すなわち親父と、まるで接続性がない、まるで連続性がない。だからこそ、たとえば第一話で親父が朋也の部屋に入ってきたときも、智代が朝起こしに来たときも、まるでワープでもしたかのように、いきなりそこ(朋也の部屋)にいる。他との連続性・接続性がないから、他者は”突然”でしか出現しえない。

……これだけなら、なんてことはありません、どのアニメでもあんだろ杏の家だってそうじゃんという話ですが、朋也の部屋という環境、つまり「家における朋也の居場所」に関しては、他にも比較対象があるので、話は別になります。他に朋也が暮らした家、そう、古河家と、あの卒業後に住んだアパートですね。
玄関・居間・台所・朋也の部屋、あとほんの少しの廊下……それ以外は「何も」写さなかった岡崎家に比べ、古河家は写しまくりです。岡崎家じゃ映されず、どうやって彼の部屋に辿り着くのか不明だった階段だって、ここでは写しまくり。渚の部屋、あるいは朋也の部屋に、”どうやって”辿りつけるのか分かりまくりですね。つまるところ、接続性・連続性がある。「朋也の部屋」という朋也の居場所が、他の部屋と、誰かの居場所と、繋がっている。すなわち、その家に住む他の者と、朋也が”繋がっている”。部屋と同じく、親父に対して奇妙に浮遊した関係であったかつてとは大違いです。そもそも、一歩踏み込めばすぐ家の領域に変わるタイプの「お店」ですしね。接続性と連続性は、この家内だけに留まらず、外側にまで延びている。
「アパート」に関しては、言うまでもないでしょう。そもそも部屋がないし。全てが一気通貫に繋がっています。
そしてここにおいては、もうひとつ大事な指摘があります。親父とのすれ違いを解消した、アフターストーリーの19話。親父との話し合い後は、「それまで」の岡崎家とは違って……というか、それまでに写されていなかったものを、沢山写しています。一緒にお風呂が象徴的ですが、そこに、朋也と、直幸が、同フレーム内に収まる。
ここにおいて「繋がった」ワケですね。家の中での居場所というものが、家の中の他に対して奇妙に浮遊していた――その関係は彼ら二人の関係と同様でもあった――学生時代の朋也の居場所に対して、古河家においては、他の場所と繋がる連続を、アパートにおいては、そもそも全ての場所が一つになるほどの繋がりを、そしてこのAS第19話で、岡崎家においても、全ての場所に「朋也も直幸もいれる――偏在できる」、すなわち「全ての場所が彼らの居場所になりうる」ということを示したワケです。もう、この家の中で、朋也の居場所は、他と隔絶されて浮遊することなくなった。地続きに、続いている。
ついでにもう一つ言っておくと、(朋也の家から)春原の部屋に向かうという描写が殆どないということも重大であります。寮の遠景を映すくらいで、気付いたら、春原の部屋に居る。そこではむしろ逆、奇妙に「繋がって」います。道中の徹底した省略により、玄関(というか朋也くんの部屋の扉)開けたら春原の部屋、というくらい繋がり性ができている。


ということで『マジ恋』の話に戻りましょう。一応ネタバレなところは反転文字で。
先に書いたように、通学路の背景というのは「家の前」「河川敷」「変態の橋」の三つ(河川敷に関しては2パターンの絵)しかない。その「通学路」は、他者的なところ――つまり別の・一般の「家」とか「駅」ですね、それを決して写さない、けれども、川という境界を写す(そして橋が「変態の橋」である以上、橋までは「正常」である)ということにより、そこ自体が「境界」となっている。
まず風間ファミリーという学校に向かう面々があって、ただし「彼ら」と「学校」は外部と内部、境界が引かれている。故に川という境界を橋をもって渡る。けれども、当然ながら学生である以上は、大きな目で見れば彼らとて学校の内部である。そして「学校」と「社会」というのも当然厳密的には区分けできるものであって、そこでもまた境界が引かれている、故に通学路は他者的なものを映さない。一般の家々は映らない――少なくとも、この歩いている土手以外の場所にあるし、同じ学校に通うもの・(社会・一般からは外れてる)百代への挑戦者・外部だけど風間ファミリーに非常に近いキャップのバイト先の店長なんかは通行人として映っても、他は映らない。ただし「学校」も「風間ファミリー」も、「地域」という枠組みでなら包括される。つまり「家の前」「河川敷」「変態の橋」も、大きく見れば川神という地域の元に包括される。変態の橋は学生で共有され、川・河川敷は総理がそうだったように地域で共有され、家は寮ゆえに寮生で共有される。そして川神を火の海にするというラストシナリオでも、その全てが映っていた――ひるがえれば、その全てが川神に入っていた――ように。(←ネタバレ反転)

聖域たる秘密基地のビルに向かうときも、特別なイベントとかなく、通常時なら(つまり殆どにおいて)、いきなりビルの前か、いきなり部屋、あるいはせいぜい家の前・学校の前・河川敷くらいしか写されないのもまた特徴でしょう。
つまりですね――「外部」と(から)、少し浮遊している。いや、その場所そのものに、キャラクター達が直接的に接続されていると述べた方が近いでしょうか。

これらは殆ど全てのエロゲにおいて、「背景画像」が限られているという数の点から当然のことでして、別のタイトルなら違う意味や見解がそこに持てるので、まったくもって『マジ恋』に限らないことですが(それゆえ作り手側が「狙って」これをしてるか「偶然に」こうなったか以前の問題になりますが)。しかしこの背景画像によって必然的に生じうる「断絶」と「接続」は、一考に価するのではないでしょうか。

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